異なる波長の観測を、一つの天体に結びつける
晩年の星の周囲には、放出されたガスや塵が広がっています。その中の分子が電波を増幅する「天体メーザー」は、ガスの動きを知る手がかりです。私たちは、数十年にわたるOH・水・SiOメーザーの観測を整理し、赤外線の観測や、Gaiaに基づく距離情報と結びつけています。
記録は異なる論文やカタログに分散し、天体名や位置の精度、単位、観測時期もそろっていません。座標が近くても同じ天体の記録とは限らず、同一天体でも、電波と赤外線が異なる空間領域を捉えることがあります。
どこまで細かく見分けられる装置なのか、位置の誤差はどれほどか、周囲の放射が混じっていないか。変光や観測時期、スペクトルも確かめます。自動照合やAIも対応候補を絞る助けになりますが、その妥当性には、現在も専門知識による確認が欠かせません。
さらに、物理量の定義と単位をそろえ、不確かさや観測条件、出典を残します。ファイルを機械が読み込めることに加え、何を測った値なのかを科学的に確かめられることが、AIに使えるデータの条件です。
ガスの動きから、次に観測する星を選ぶ
整理したメーザー観測記録を使い、ガスの速度の違いから観測候補を探す共同研究も行っています。外側のガスの膨張を捉えるOHメーザー(1612 MHz)の速度範囲を基準に、水や別の周波数のOHメーザーがその範囲をはみ出す天体を探します。この「速度超過」は、単純な球状の膨張では説明しにくい動きを探す目印です。
Fanら(2024)はOHと水のメーザーを、Xieら(2025)は周波数の異なるOHメーザーを比較して、こうした特徴を持つ天体を選びました。データベースで候補を絞り、対応する赤外線天体や元のスペクトルを点検します。
さらにXieら(2026)は、候補の赤外線放射や変光を調べました。球状の塵の分布を仮定したモデルと速度超過の特徴から、外側の構造を保ちながら内側で非対称な流れが生じ始めた可能性がある2天体を、初期のウォーターファウンテン天体の有力候補に挙げています。
ウォーターファウンテン天体は、水メーザーが細い噴流を描き出す天体です。この2天体も確定分類には至っておらず、電波や赤外線の高解像度観測で、ガスの位置と動きを確かめることが次の課題です。
AIの探索を支えるデータ基盤
カタログを再利用できるようにするには、各データの出典、観測条件、照合や選別の判断根拠を残すことが重要だと考えています。
将来は、この基盤をAIによる多数の天体の比較や統計的な規則性の検討、異常な天体の探索、追観測の優先順位づけに生かせる可能性があります。ここで紹介した研究は、そのためのデータ基盤と、物理的な比較に基づく候補選びの取り組みです。
整えたカタログから候補を選び、電波や赤外線で確かめ、その結果をまたデータへ戻す。カタログは、この往復を通じて発見を支える研究の道具になります。人の専門知識による整備は、AIの能力を科学に生かすための土台なのです。