どんな星を、どこで探すか
魚釣りでは、釣りたい魚が決まっていても、どこに釣り糸を垂らせばよいかが分からなければ、なかなか釣果は上がりません。天文学の観測にも、これとよく似たところがあります。一つひとつの星を詳しく調べるには時間がかかります。限られた望遠鏡の観測時間で、数多くの天体のうち、どれを優先して調べるかを考えなくてはなりません。
今回の研究で私たちが提案したのは、いわば「珍しい魚が釣れるかもしれないポイント」です。ただし、空の特定の方向や宇宙空間の場所を指すわけではありません。星の明るさと、周囲から届く電波の特徴を二つの軸にした図の中で、重点的に調べる領域を考えました。
星の周囲から届く電波
対象は、一生の終盤に大きく膨らみ、ガスや塵を盛んに放出する星たちです。比較したのは、低・中質量の星が晩年に迎えるAGB(漸近巨星分枝)星と、生まれたときの質量がより大きい星が進化した赤色超巨星(RSG)。どちらも表面の温度が低く、赤く見えますが、似た外見から同じ進化の道筋をたどるとは限りません。
こうした星の近くでは、ガスに含まれる一酸化ケイ素(SiO)の分子が、特定の条件のもとで電波を増幅します。これがSiOメーザーです。レーザーと似た仕組みで強くなった電波は、星のすぐ外側にあるガスの様子を伝えてくれます。
電波を周波数ごとの強さに分けたスペクトルには、幅があります。ガスがこちらへ近づくか、遠ざかるかによって、ドップラー効果で電波の周波数がずれるからです。その幅を速度に換算すると、視線方向にどれほど異なる速度のガスが見えているかを調べられます。今回は、検出された放射が占める速度の全幅、FWZIを使いました。ただし、これをそのままガスの膨張速度や星の質量、単位時間あたりの質量放出量と読み替えることはできません。
スペクトルの幅に現れた違い
そこで、多数の天体のSiOメーザー観測記録を比較しました。主に野辺山45 m電波望遠鏡の観測から集めたのは、1,551天体についての2,956件の検出スペクトルです。追加の文献情報も合わせ、酸素過剰、つまり炭素より酸素の多いAGB星1,068天体と、赤色超巨星36天体を比較の標本としました。
信頼性よく幅を測れた星を比べると、赤色超巨星のほうが広い線幅を示す傾向が、はっきり現れました。星の種類によって、周囲のガスから届く電波にも統計的な違いがあるのです。ただし、幅の広いAGB星も混じっています。「広ければ赤色超巨星」と判定できるほど、きれいには分かれませんでした。
二つの目印を、一枚の図に
次に、星の光度も比較に加えました。ここで使うのは、地球から見た見かけの明るさではなく、星が単位時間に放つエネルギーの総量である「光度」です。赤外線の観測と、主にGaiaの観測に基づく距離を使って見積もりました。
横軸に光度、縦軸に電波の線幅をとり、星を一つずつ置いていきます。すると、AGB星は光度が低く線幅が狭い側に、赤色超巨星は光度が高く線幅が広い側に多く分布します。ここでも両者は重なりますが、AGB星と分類されていながら、二つの特徴が赤色超巨星の分布に近づく天体があります。
私たちが注目したのは、この光度が高く線幅も広い側の領域です。図の緑の枠を「赤色超巨星に近い領域(RSG-adjacent region)」と呼び、詳しい観測の対象を選ぶ目安として提案しました。似た点が二つそろう星を優先して調べれば、通常のAGB星として理解できるのか、それとも別の解釈を考える必要があるのかを、効率よく検討できるかもしれません。
この枠は、新しい星の分類でも、星の進化段階を決める境界でもありません。観測された分布に基づいて定めた、探索のための目印です。その中に何が含まれるかを調べ、選び方の有用性を観測で試せることに、この図の意味があります。
枠の中には、どんな星がいたか
今回、この領域に入ったのは、既存のカタログでAGB星と分類されていた10天体でした。新発見の10天体という意味ではありません。探索の目安を提案するだけで終わらず、実際にどんな星が含まれているかを確かめる事例として、既存の観測データを詳しく検討しました。
手がかりにしたのは、波長ごとの赤外線の明るさの分布(SED)と、星の周りの塵の放射を計算するDUSTYというモデル、ほかの分子によるメーザー、明るさの時間変化です。これらを合わせると、6天体は現時点では高光度のAGB的天体として自然に理解できます。2天体は、初期質量の大きなAGB星なのか、赤色超巨星的な性質をもつのか、後で触れるSAGB星に関係するのかを調べる追加観測が、特に重要と考えられます。残る2天体は単純なDUSTYモデルがSEDにうまく合わず、性質を十分に絞り込めませんでした。
枠に入る星が、すべて珍しい種類になるわけではありません。同じ図の領域にも異なる性質の星が含まれるからこそ、線幅と光度を入り口に、別の観測も重ねて一つずつ調べる必要があります。
これからの星探し
中でも見つけたいのが、スーパーAGB(super-AGB、SAGB)星と呼ばれる星です。通常のAGB星よりも生まれたときの質量が大きく、理論では、内部で炭素の核融合が中心から外れた場所で始まり、その後AGB星に似た進化をたどると考えられています。
星は生まれたときの質量などによって、白色矮星を残すこともあれば、超新星爆発に至ることもあります。SAGB星はこの進化の分かれ目にあり、どのような星がどちらの最期を迎えるのかを知るうえで、重要な存在です。ところが、光度や周囲のガス・塵の特徴は普通のAGB星や赤色超巨星とよく似ているため、観測で確実に見分けるのが難しいのです。
今後、図の緑の領域に入る星を詳しく調べていけば、こうした星の有力候補に出会えるかもしれません。ただし、この領域にSAGB星が含まれる保証はなく、今回注目した2天体も、確度の高いSAGB候補と断定できる段階ではありません。
観測上の限界もあります。線幅を比べた赤色超巨星は32天体と少なく、観測感度やメーザーの時間変化によって、検出できる電波の幅は変わります。光度には星までの距離の不確かさも影響します。この方法がどれほど役立つかを確かめるには、観測データを増やし、個々の星をさらに詳しく調べる必要があります。
今回の研究で、SAGB星が見つかったわけではありません。それでも、そうした星を探すための具体的な手がかりを一つ提案することはできました。珍しい星を発見するのは、もちろん面白いことです。まだ見つかっていない星を、どうすれば見つけられるのか。その方法を考えることも、天文学の楽しさの一つだと思います。