星の晩年に現れる「噴水」

太陽のような低・中質量の星は、晩年のAGB(漸近巨星分枝)星の時期に大きく膨らみ、ガスや塵を盛んに放出します。星を包むこの物質の層が「星周エンベロープ」です。活発な質量放出を終えてpost-AGB星へ移るころには、おおむね球対称だった構造から、方向によって大きく異なる構造への変化が問題になります。その先に見られる惑星状星雲の多彩な姿を理解するには、この変化の始まりを捉える必要があります。

そこで注目されるのが、ウォーターファウンテン天体です。星の近くから反対の二方向へ細く伸びる、高速の分子ガスの流れ、双極ジェットをもち、その運動をH₂Oメーザーで調べられる天体を指します。メーザーは、分子が特定の条件で電波を増幅する現象です。名前に「水」とありますが、液体の水が噴き出すのではなく、水分子を含むガスから届く電波を観測しています。

既知の天体では、ジェットの長さと速さから推定した時間尺度が数十〜数百年と短く、星周ガスの形が変わり始める時期を探る貴重な手がかりになります。ただし、すべてを一つの進化段階に割り当てられるわけではなく、AGB星の段階ですでに構造が変わる可能性も議論されています。

速さそのものより、二つの電波の違いを見る

従来の探索では、H₂Oメーザーが100 km/sを超える非常に広い速度範囲に分布することが、有力な目印でした。ここでいう速度は、ドップラー効果から分かる、私たちの視線に沿ったガスの速度です。ジェットの向きが視線と大きく傾いていたり、加速の途中にあったりすれば、実際にジェットがあっても、この目印では目立たないかもしれません。

本研究では、先行研究で提案した方法を、多数のメーザー観測記録に適用しました。H₂Oの22.235 GHzメーザーと、OH(水酸基)の1612 MHzメーザーを、同じ天体で比較しました。通常の球対称に膨張するエンベロープでは、H₂Oメーザーは星に近く、ガスがまだ加速されている領域から、OHメーザーはその外側の、ほぼ一定の速さに達した領域から放射されます。OHの二つのピークは、主にこちらへ近づく側と遠ざかる側の運動を映します。

この単純な描像では、H₂Oメーザーの速度はOHの示す範囲に収まると考えられます。ところが、より速いジェットがH₂Oメーザーを放射すれば、その一部がOHの範囲からはみ出す可能性があります。絶対的な速度幅が極端に大きくなくても、その星自身のエンベロープを基準にすれば、異なる運動に気づけるのです。

球対称に膨張するガスの模式図。外側のOH領域は青、内側のH₂O領域は赤で示され、赤いスペクトルの速度範囲は青い二つのピークの間に収まる。
論文図1球対称に膨張するエンベロープ。右がガスの構造、左が電波の強さを視線速度ごとに示すスペクトルです。青はOH、赤はH₂O。外側のガスの運動が、比較の基準になります。出典:Fanほか(2024)、CC BY 4.0。図の出典拡大する
中心に緑の双極ジェットを加えた模式図。ジェットに伴うH₂Oメーザーの成分が、青いOHの二つのピークより外側の速度に現れる。
論文図2ジェットがある場合。緑の矢印が示す流れの速さと向きによって、H₂Oの放射がOHの速度範囲の外に現れます。ジェットと周囲のガスの相対的な大きさは未確定で、図は概念を表したものです。出典:Fanほか(2024)、CC BY 4.0。図の出典拡大する

ただし、この速度条件は探索の入り口です。OHの放射を十分に捉えられていなければ、見かけ上H₂Oが範囲を超えることもあります。速度の違いだけで、ジェットの存在が証明されるわけではありません。

観測の蓄積を、同じ星で結び直す

探索の土台は、長年にわたる星周メーザー観測のデータベースです。使用したOH 1612 MHzの記録は8,474件で、観測対象6,068天体のうち検出天体は2,195。H₂Oの記録は6,085件、観測対象3,642天体のうち検出天体は890でした。同じ星を何度も測った記録も、検出されなかった記録も含むため、観測件数と天体数は異なります。

多数の観測記録をまとめて比較することで、個別の観測計画では対象にならなかった天体も調べられます。一方で、観測時期、感度、位置の精度はそろっていません。メーザー自体も時間とともに強さやスペクトルが変わります。本研究では、複数の観測がある場合は過去の記録を通じた速度の最大・最小を採用しました。これは、ある一時点にすべての成分が同時に見えたという意味ではありません。

さらに、WISEや2MASSの赤外線画像を点検し、星が生まれる領域にある若い天体と考えられるものや、対応する星を一つに絞れないものを除きました。OHとH₂Oの観測が同じ星を見ているかを赤外線天体の位置を介して確かめ、最終的に229天体で速度を比較しました。

OHが二つのピークを示す場合には、その間の範囲からH₂Oの放射が片側だけでもはみ出す天体を拾います。OHが一つのピークしか示さない場合には、別の、より慎重な速度条件を用いました。その後はデータベースの数値に加え、文献に掲載された元のスペクトルに戻り、弱い成分の見落としや、OHの二つのピークの解釈を一つずつ確かめています。

41天体から、詳しく調べる11天体へ

229天体の比較で速度条件を満たしたのは52天体でした。そこから既知のウォーターファウンテン7天体と、以前に報告された候補4天体を除いた41天体を、今回の詳しい検討の対象としました。したがって、41という数は新たに確定したジェット天体の数ではありません。

スペクトルなどを詳しく調べた結果、H₂Oの速度範囲の逸脱が信頼できると判断されたのは11天体でした。ほかには、OHの弱い放射がデータベースに記録されず範囲が狭く見えていた例などがありました。この11天体も、すべてがウォーターファウンテンとして確定したわけではありません。球対称の単純な描像だけでは説明しにくい運動をもち、さらに調べる価値のある天体の集まりです。

41選別天体の速度範囲の分布。上段がH₂O、下段がOH。青い破線は20 km/sを示し、上段の広い側にIRAS 19069+0916が示されている。
論文図7選別した41天体のメーザー速度範囲。上段がH₂O、下段がOHで、縦軸は天体数です。分布を眺めるだけでなく、同じ天体の二種類の放射を比べることが今回の探索の要点です。横軸の全幅を、そのままジェットの速さと読み替えることはできません。出典:Fanほか(2024)、CC BY 4.0。図の出典拡大する

11天体の中でも注目したのが、IRAS 19069+0916とIRAS 19319+2214です。赤外線衛星IRASが測った波長ごとの明るさの比、いわば赤外線での「色」を使うと、両者はpost-AGB星に対応する色の領域に位置すると解釈できます。H₂Oのスペクトルにも、既知のウォーターファウンテンに似た特徴があります。

IRAS 19319+2214は、初期のpost-AGB星が多いIIIbという領域にあります。IRAS 19069+0916はIIIbとIVの境界付近に見えますが、60 μmでの測定値の不確かさを考慮するとIIIbに位置し得ます。後者の領域区分を厳密に断定することはできません。また、赤外線色だけで進化段階を確定できるわけでもありません。

IRASの12・25・60マイクロメートルの明るさの比を二軸にした図。赤丸が信頼できる速度逸脱のグループA、青丸が不確かなグループB。既知のウォーターファウンテンと既報候補は別の黒い記号で示される。
論文図8赤外線の色から、天体の進化段階を検討した図。赤丸のグループAは11天体、青丸のグループBは速度逸脱が不確かな天体です。黒丸は既知のウォーターファウンテン、黒三角は既報の候補、黒いX印は選別後にAGB/post-AGB星以外と分かった天体、灰色の十字は速度条件を満たさなかった天体を表します。灰色の矢印は測定値が上限値の場合の色の制約です。破線の領域区分はvan der Veen & Habing(1988)によるもので、境界だけで個々の星の段階を決めることはできません。小さな記号や領域名は、拡大してご覧ください。出典:Fanほか(2024)、CC BY 4.0。図の出典拡大する

ガスの動きから、次の観測へ

今回、従来の100 km/sを超える速度幅で目立つような、未報告の「古典的」ウォーターファウンテンが見つかったわけではありません。OHとH₂Oのメーザーの速度範囲を比較することで、従来の速度幅による基準では選ばれにくい天体も調査できることを示しました。

この条件はウォーターファウンテンだけを選ぶものでもありません。選別対象には、すでに惑星状星雲と知られていた天体も含まれます。また論文では、恒星合体で生じた残骸の候補として先行研究で議論されている天体にも、同様の速度条件が当てはまり得ることを指摘しました。今回、恒星合体残骸を新たに発見・確認したという意味ではありません。

探索の限界もあります。OHとH₂Oの両方の観測が必要で、位置や赤外線での対応が曖昧な天体は選べません。実際、論文時点で知られていた16個のウォーターファウンテンのうち、この手順を通過したのは7個でした。ジェットの向きや放射の時間変化による見落としも避けられず、この探索は網羅的な名簿をつくるものではありません。

候補の正体を確かめるには、電波望遠鏡を組み合わせて細かい構造を捉える、高角分解能の電波干渉計観測が必要です。メーザーが実際にどこにあり、双極の流れを描いているかを調べ、複数の時期に観測して変化を追う。その積み重ねが、速度の違いという手がかりを、星の晩年に起こる構造変化の理解へつないでいきます。

この研究を始めたのは、コロナ禍で観測に出かけることが難しかった時期でした。限られた条件の中で何ができるかを考え、すでに論文で公表されているメーザーデータを整理し直し、新しい視点で比較することを試みました。その最初の論文が本研究であり、この試みは、思いがけず多くの成果を生む一連の研究の出発点になりました。新しい観測に加えて、蓄積されたデータを見直すことからも、研究の道筋が開けることがあります。