Profile
プロフィール
中島淳一 Jun-ichi Nakashima
天文学者・大学教授
星が一生の終わりに近づくとき、
その周囲で何が起こるのか。
星から放出されるガスや塵の分布や運動を、電波と赤外線の観測から調べています。日本で天文学を学び、米国、台湾、香港、ロシアを経て、現在は中国広東省の研究大学で研究と教育に携わっています。
研究と並行して、科学の面白さや、各地で経験した大学教育・研究文化について、文章と音声で発信しています。
Research
電波でたどる、
星の晩年
星は、ガスや塵を宇宙空間へ放出しながら姿を変えていきます。その物質は、やがて次の世代の星や惑星の材料にもなります。私が調べているのは、この物質の放出がどのように進み、星の周囲に複雑な形や流れをつくるのかという問題です。
手がかりの一つが「天体メーザー」です。星の周囲の分子が、レーザーに似た仕組みで電波を増幅する現象で、ガスの運動や状態を詳しく調べられます。野辺山の電波望遠鏡による銀河系内のSiOメーザーサーベイを出発点に、複数の望遠鏡を組み合わせる電波干渉計や、遠く離れたアンテナを使うVLBIによる観測へと研究を広げてきました。
2000年から研究を続けている天体の一つが、IRAS 19312+1950です。2000年に出口修至氏との共同研究でSiO・水メーザーの検出を報告して以来、分子ガスの分布や化学組成、電波の長期変動を調べてきました。進化した星に似たメーザーを放つ一方、周囲には星形成領域を思わせる豊富なガスや分子があり、私たちの2025年の長期メーザー観測でも、その起源を一つに絞るには至りませんでした。
この天体については、ほかの研究グループも観測を行っています。NASAの2016年の記事は、CordinerらがSpitzer宇宙望遠鏡とHerschel宇宙望遠鏡の赤外線観測から、形成途上の星という解釈を示した研究を紹介しています。
Gongらの2026年の論文では、IRAS 19312+1950が「Nakashima-Deguchi object(NDO)」という呼称で取り上げられています。大きな分子雲、複数の塵の塊、重水素を含む分子などの観測から、Orion KLという星形成領域との類似性が議論されています。周囲の物質は星形成環境として解釈しやすいものの、中心天体の正体はなお確定していません。
近年は、OH・水・SiOメーザーの観測記録をデータベースとして整理し、多数の天体を比較する研究にも取り組んでいます。星の周囲に細い噴流が生まれ始める段階を捉えるため、電波に現れるガスの速度と赤外線の特徴を組み合わせ、詳しく観測する候補を選びます。一つの天体を長く見続けることと、多くの天体から新しい手がかりを探すことを、研究の両輪にしています。
2026年8月、青海省徳令哈で開催された国際研究会「The 2nd AI-Empowered Astronomy for Open Science」で、星周メーザーの観測記録を新しい天体候補の探索へつなぐ取り組みを発表しました。観測データを物理的に意味のある形に整えることが、AI時代にも研究の土台になるという考えを紹介しました。
Career & education
研究と教育の
歩み
日本の大学院で学位を取得した後、米国の電波干渉計プロジェクト、台湾の中央研究院、香港大学、ウラル連邦大学で研究に携わりました。異なる制度や言語のもとで研究し、学生や共同研究者と仕事をしてきた経験は、科学と大学教育について考える土台にもなっています。
- 1990年
- 京都府立洛西高等学校 普通科Ⅱ類(理数系)卒業
- 1995年
- 岡山理科大学 理学部 応用物理学科 卒業
- 1999年
- 大阪教育大学大学院 教育学研究科 総合基礎科学専攻 修士課程修了
- 2002年
- 総合研究大学院大学 数物科学研究科 天文科学専攻 博士課程修了。博士(理学)
- 2002年
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 研究支援員
- 2002–2005年
- イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 天文学科 博士研究員米国 · BIMA/CARMAプロジェクト
- 2005–2007年
- 中央研究院 天文及天文物理研究所 博士研究員台湾 · SMAグループ
- 2007–2013年
- 香港大学 物理学科 研究助理教授Research Assistant Professor
- 2014–2019年
- ウラル連邦大学 特別研究員、のち教授(2015年から)ロシア・エカテリンブルク
- 2019年–現在
- 中山大学 物理与天文学院 教授中国・珠海
現在は中山大学で、全学向けの天文学から観測データの解析、電波天文学、大学院の天体物理学までの授業と、大学院生の研究指導を担当しています。学生・若手研究者との共同研究では、観測記録の整理から天体の選定、解析、論文の執筆へと研究を進めています。
香港大学では、赤色超巨星や星周メーザー、進化した星の電波干渉計観測を対象に、香港研究資助局(RGC)の一般研究基金(GRF)を研究代表者として獲得しました(2008・2009・2010年)。採択記録:2008年、2009年、2010年(香港大学)
長倉研究奨励賞
2002年、総合研究大学院大学の長倉研究奨励賞を受賞しました。受賞テーマは「銀河系内の酸素リッチな晩期型に対する観測的な研究」です。同年春の『総研大ジャーナル』創刊号には、研究について語ったインタビューが掲載されています。
外部プロフィール:中山大学国際天文学連合(IAU)
Selected papers
代表論文
これまでに学術誌に発表した共著論文から、主な研究テーマを示すものを選びました。
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2000
Detections of SiO and H₂O Masers in the Bipolar Nebula IRAS 19312+1950
Publications of the Astronomical Society of Japan, 52, L43–L46.
DOI: 10.1093/pasj/52.5.L43IRAS 19312+1950からSiO・水メーザーを検出。長期にわたる研究の出発点となった報告です。
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2003
SiO Maser Survey toward the Inner Galactic Disk: 40° ≤ l ≤ 70° and |b| ≤ 10°
Publications of the Astronomical Society of Japan, 55, 203–227.
DOI: 10.1093/pasj/55.1.203銀河系内の272天体を観測し、134天体でSiOメーザーを検出しました。うち127天体が新規検出で、星の分布と運動を調べました。
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2012
CO Structure of the 21 μm Source IRAS 22272+5435: A Sign of a Jet Launch?
The Astrophysical Journal, 759, 61.
DOI: 10.1088/0004-637X/759/1/61電波干渉計CARMAで星周ガスの構造を観測。単純な膨張だけでは説明しにくい形から、噴流と周囲の物質との相互作用の可能性を検討しました。
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2015
Methanol observation of IRAS 19312+1950: A possible new type of class I methanol maser
Publications of the Astronomical Society of Japan, 67, 95.
DOI: 10.1093/pasj/psv064IRAS 19312+1950でクラスIメタノールメーザーを検出。中心天体を進化した星と仮定した場合に、その流出と周囲の分子ガスが相互作用している可能性を検討しました。
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2024
Systematic Search for Water Fountain Candidates Using the Databases of Circumstellar Maser Sources
The Astrophysical Journal Supplement Series, 270, 13.
DOI: 10.3847/1538-4365/ad0458OHと水メーザーのデータベースを照合し、ガスの速度範囲を手がかりに11天体を選定。水メーザーで細い噴流を示す「ウォーターファウンテン天体」などの候補を系統的に探す方法を示しました。
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2025
Considerations on the Origin of IRAS 19312+1950 Based on Long-term Maser Observations
The Astrophysical Journal, 981, 41.
DOI: 10.3847/1538-4357/adae09SiO・水・OHメーザーの長期観測から、IRAS 19312+1950の起源を再検討しました。進化星や恒星合体残骸との類似点を調べつつ、残る不整合と観測課題を整理しています。
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2026
Infrared Spectral Energy Distribution Modeling of Velocity Excess in Maser Sources: Identifying Incipient Water Fountain Candidates
The Astrophysical Journal, 998, 27.
DOI: 10.3847/1538-4357/ae2fe9メーザーに見られる速度の特徴を赤外線のモデル解析と組み合わせ、非対称な流れが生じ始めた星の候補を検討しました。
研究成果のプレスリリース
|ALMA・国立天文台
星の最期に生まれるジェット――W43AのALMA観測
共著者として国際共同研究に参加したW43AのALMA観測成果が、国立天文台とALMAの公式プレスリリースで紹介されました。高速ジェットが星の周囲の物質を変形させ始めた様子を捉え、ジェットの運動学的年齢を約60年と推定した研究です。
原著:Tafoya et al. (2020), The Astrophysical Journal Letters, 890, L14.
Writing & conversation
科学と大学を、
社会にひらく
研究室の外では、科学の面白さや、海外での研究者生活、大学で学ぶこと・教えることについて話し、書いています。複数の国・地域の大学を経験した立場から、教育や研究の仕組み、科学と社会の関わり、生成AIが研究・教育にもたらす変化などを考えています。
Voicyの「中島淳一の天文屋日記」では、天文学、研究生活、大学教育などについて話しています。以下では、ほかの方の番組に出演した対談や取材記事を紹介します。
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2025年4月2日・5日 · note/Voicy
中国の大学と、各地の研究・教育文化
文筆家・編集者の野本響子さんによるインタビュー。中国の研究環境と、日本・米国・台湾・香港・ロシアで経験した大学の違いを語りました。
記事は一部有料。元放送は2025年3月17日公開。
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· Voicy
生成AIと大学教育についての対談
野本響子さんの番組に出演。試験でAIの利用を認めた経験を入り口に、大学の教育現場とAIについて話しました。
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· Voicy
台湾の中央研究院での研究生活
台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子さんとの対談。2005–2007年の台湾での経験をもとに、研究環境や各地の大学について語りました。
紹介記事は2025年9月9日公開。
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· E1.RU(ロシア語)
エカテリンブルクでの研究と暮らし
地元メディアによる、外国人研究者を紹介するシリーズの取材。ウラル連邦大学での研究や、現地での生活、文化の違いについて話しました。
元記事の保存版(Internet Archive)へ移動します。
最終更新: