星の表面が接触する前に、何が起こるのか

連星では、一方の星からもう一方へガスが移ることがあります。よく知られているのは、星がロッシュローブを満たし、内側のラグランジュ点付近からガスが流れ出す場合です。しかし、目に見える表面、つまり光球の外側にも、薄い大気は存在しています。したがって、光球が境界に届く前からガスが移る可能性は、もともとあるわけです。

著者らが見直したのは、光球の外のガスを主に熱的な圧力で支えられた薄い大気として扱う処方です。この仮定では、光球がロッシュローブへ届く前の質量移動率は非常に小さくなります。この論文は、脈動する巨大星で衝撃波が厚い大気を支える場合にも、その見積もりが当てはまるかを検討しています。

衝撃波が厚い彩層を作る

著者らは、巨大星の衝撃波がガスを外側へ押し上げ、恒星半径の数倍まで広がる彩層を作り得るという先行する流体計算を踏まえています。その大気を連星の重力場に置き、伴星へ流れるガスの量を解析的に求めています。

著者らのモデルでは、光球がロッシュローブに達する前でも、質量移動率が従来の見積もりを何桁も上回る場合があります。とくに進化の進んだRGB星やAGB星で差が大きいと報告しています。著者らは処方をMESAへ実装し、その後の連星進化への影響も調べています。ただし、これはモデルによる予測であり、質量移動を直接観測した結果ではありません。

WRLOFとどう違うのか

著者らは、恒星風が伴星の重力に集められるWRLOFとの類似点も論じています。一方、このモデルは質量移動の効率を経験的に与えるのではなく、衝撃波に支えられた大気の構造から流量を導く点が異なります。著者らは、ロッシュローブを満たす前の質量・角運動量の変化が、その後の安定な質量移動や共通外層進化へ影響する可能性を指摘しています。

著者らは、MESAで使われてきたRitter(1988)の光学的に薄い質量移動の処方にも実装上の不正確さがあったとして、修正しています。もっとも、新しい処方の妥当性は、衝撃波が実際にどの程度大気を支えるかに左右されます。外層ガスの密度や速度を観測し、モデルと照合していく必要があるでしょう。

進化星研究への接点

この論文が示すのは、単独星の質量放出で論じられてきた外層大気の物理が、連星の相互作用にも関わり得るという理論的な可能性です。著者らの提案の検証には、彩層の構造や連星集団との比較が必要です。AGB星で同じ規模の質量移動が普遍的に起きると証明したものではありません。