星の変光は、過去を知る手がかりになるか
AGB星は、比較的軽い星や中質量星が進化の終盤に到達する段階です。膨張した外層は脈動し、明るさが周期的に変化する天体も多く見られます。脈動周期と星の年齢の間に関係があれば、いま観測できる周期から、その星が生まれた時代を統計的に探れることになります。
著者らはGaia DR3の長周期変光星カタログから得た879個のAGB星を出発点とし、酸素過剰星と炭素過剰星を分けた周期・Wesenheit関係を用いて、基本モードで脈動すると見なす標本を2,047個へ拡張しました。ただし、この2,047個がすべてミラ型変光星というわけではありません。OGLE-IIIとの照合でミラ型と確認されたのは256個でした。
「周期を年齢に直す」方法で答えが違う
この研究の大きな特徴は、周期から年齢への換算を一通りに決めなかったことです。著者らは理論的な較正と観測的な較正という二つの関係式を使い、それぞれで星形成史を計算しました。その結果、復元される履歴には無視できない違いが現れました。
著者らはミラ型星に絞った標本を主な結果として、古い星の集団に対応する約90〜100億年前、比較的静穏な約40〜80億年前、そして約15〜20億年前に山を持つ活発な星形成期という構造を論じています。ただし、最も古い年代の各区分に含まれる星は少なく、その強さの推定には注意が必要です。二つの較正が描く歴史は同じではなく、色等級図に基づく独立した結果との一致の仕方も異なります。著者らが片方だけを「正解」として選ばなかったことは、この研究を読むうえで重要です。
星の化学組成も確かめる
著者らはAPOGEE DR17の赤外線スペクトルを利用し、296個のAGB星と271個のRGB星について、マグネシウム、ケイ素、カルシウムの組成を調べました。吸収線を一本ずつ精査し、利用する線を選び直すことで、公開カタログの値より星ごとの散らばりが小さくなると報告しています。
AGB星は大気の構造や変光の影響で分光解析が容易ではありません。それでも、線の選び方と較正を慎重に扱えば、銀河の化学進化を調べる資料になり得る、というのが著者らの結論です。
銀河の歴史を読むには、物差しも調べる
一つの研究で得た星形成史をただ一つの確定した年表として受け取るのは早計です。周期と年齢の関係、標本の作り方、化学組成を測る線の選択が、復元される歴史を左右します。
その意味で、この論文が示したのは、AGB星という新しい手がかりの可能性だけではありません。銀河の過去を測るとき、観測データと同じくらい、それを年齢へ変換する「物差し」の検証が大切だということです。