惑星状星雲が輝き始めるまで
太陽程度の質量をもつ星は、晩年にAGB星となり、膨らんだ外層からガスやダストを放出します。やがて中心に残った星が高温になると、周囲のガスは紫外線で電離され、光るようになります。これが惑星状星雲です。名前に惑星とありますが、もちろん惑星ができる現象ではありません。
著者らがVy 2-2に注目する背景には、電離されたガスの放射と、以前の星周ガスに由来するOHメーザーが共存することがあります。著者らは、異なる進化段階を反映する信号を、この星雲が惑星状星雲のごく初期にあるという解釈の手がかりにしています。
画像では見えにくい動きを、光から読む
著者らはカラル・アルト天文台のCAFOSとCARMENESで得られた光学スペクトルを調べました。原子やイオンの輝線の強さから化学組成などを推定し、輝線の波長のずれからガスの視線速度を測ります。一枚の画像では重なって見える構造も、速度を調べると区別できる場合があります。
著者らは、高分散スペクトルから四つの速度成分を報告しています。励起状態の比較的高い中心領域と、その両側に延びる励起の低い双極ローブなどに対応すると解釈しています。一方、主要な電離シェルで衝撃波励起が支配的であるという証拠は得られていません。
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「約210年」は、何の時計なのか
著者らは、中心領域の膨張速度と、以前の電波観測で測られた見かけの膨張率を組み合わせ、距離を約1.68 kpc、運動学的年齢を約210年と推定しています。運動学的年齢は、現在の大きさと速度から、ガスがそこまで広がるのに必要な時間を逆算したものです。
したがって、中心星そのものが210年前に生まれたという意味ではありません。ガスが同じ速度で広がってきたことや、比較した角膨張と視線速度が同じ構造を表していることが前提です。数字の意味を押さえたうえで見ると、この星雲が非常に若いという主張の根拠が分かります。
酸素の量が、測り方で食い違う
もう一つの重要な結果は、酸素の存在量を異なる方法で測ると、数字が大きく食い違うことです。再結合線と衝突励起線という二種類の輝線から同じ酸素イオンの量を求めるのですが、一般に両者は完全には一致しません。この食い違いを表すのが存在量不一致因子、ADFです。
著者らは、Vy 2-2の二価の酸素イオンについてADF(O²⁺) = 13.6 ± 2.6を報告しています。おおまかにいえば、一方の測定方法が他方の約14倍という値です。星雲全体の酸素が太陽の14倍という意味ではなく、測定方法による大きな不一致を示しています。
連星の痕跡を重ね合わせる
こうした高いADFは、共通外層進化を経験した連星の惑星状星雲でも報告されています。著者らは、ADFだけでなく双極構造や恒星に由来する弱い輝線などを合わせ、Vy 2-2にも近接連星の相互作用が関わった可能性を論じています。異なる種類の観測結果が、一つの進化シナリオを支持しているわけです。
ただし、この論文は伴星の存在や公転軌道を直接測定したものではありません。著者らは、弱い輝線が中心星に照らされた伴星から出ている可能性を論じていますが、確認には追加観測が必要です。化学組成と速度構造から連星進化を支持する間接的な証拠と、直接的な検出を区別して読む必要があります。