リンの化学はまだ分からないことが多い
天体から届く電波のスペクトルには、分子ごとに決まった回転遷移の周波数が現れます。これを手がかりに多くの分子が発見されてきました。しかし、リンを含む分子については、炭素や酸素を含む分子に比べ、まだ分かっていないことが多くあります。
著者らが注目するのは、炭素原子とリン原子からなるCPラジカルです。これが環状の炭化水素と結びつけば、これまで探索されてこなかった分子を作るかもしれません。実際に宇宙で見つかったという報告ではなく、まず反応そのものが起こり得るかを理論的に調べています。
小さな環状分子では形成経路が有望
著者らの計算では、環状のc-C₃H₂とCPラジカルからc-C₃HCPができる経路に、反応物のエネルギーを上回る障壁はないと予測されています。低温の気相環境でも形成し得るという議論です。著者らは、出発物質のc-C₃H₂とCPが星周シェルで検出されていることも、探索の動機として挙げています。
もっとも、作れる反応経路が見つかったからといって、分子が大量に存在するとは限りません。別の反応で壊れてしまうかもしれませんし、ほかの分子が先に作られる可能性もあります。実際の存在量を求めるには、反応の速さまで含めた化学ネットワークの計算が必要です。
ベンゼンやPAHまで広げるには
著者らは、CPとベンゼンの反応、およびCPを結び付けたナフタレンの分光学的性質も調べています。ただし、ベンゼンへの付加で反応物を上回るエネルギー障壁があるかどうかは、計算法によって結論が異なります。小さな環状分子の形成経路から、PAH全般で同じ反応が進むと断定することはできません。
著者らは、赤外線の振動スペクトルは弱く、ほかのPAHの特徴と重なるため、検出が難しいと予測しています。一方、計算された電気双極子モーメントが大きいことから、回転遷移による電波探索には可能性があると論じています。これは検出方法の予測であり、検出そのものではありません。
実際の検出へ進むには
この論文は、化学反応の可能性と分光定数の予測を組み合わせ、観測候補を提示しています。望遠鏡による同定には、精度の十分な遷移周波数と観測スペクトルとの照合が必要です。形成経路が理論上有望であることと、天体内の存在量や実際の検出が確定していることは区別されます。