星の最期に残る問い
太陽のような比較的質量の小さい星も、晩年には大きく膨らみ、宇宙空間へガスや塵を放出します。漸近巨星分枝、略してAGBと呼ばれる段階での質量放出は、星自身の進化と、星間空間への物質の供給の両方に関わっています。
では、星はいつ、どのように物質を放出してきたのでしょうか。何が含まれ、周囲にどう広がっているのでしょうか。さらに、その後に見られる惑星状星雲には、丸いものだけでなく、くびれた形や両側に伸びた形があります。こうした多様な姿が生まれる仕組みは、質量放出の歴史やガスの運動を通じて調べる研究課題です。星の進化という基礎的な話の先に、観測で確かめるべき問いが続いています。
レーザーの物理が、宇宙の観測へ
講義では、レーザーと原理を共有する「メーザー」を手がかりに、その世界へ進みます。分子のエネルギーは、連続した値ではなく、決まった準位をとります。外からエネルギーが供給され、準位ごとの粒子数が通常とは異なる「反転分布」が生じると、誘導放射によって特定の周波数の電磁波が増幅されます。宇宙では、水などの分子が電波を増幅する天体メーザーが観測されています。
メーザーは、星が生まれる領域、進化した星の周囲、活動銀河核などに現れます。その非常に高い輝度は、離れたアンテナを組み合わせる電波干渉計によって細かな構造を調べるうえで有利です。講義では、分子のエネルギー準位や放射の仕組みが、天体のガスの位置や運動を測る方法にどう関係するかを説明します。
噴き出すガスを、研究の手がかりに
進化した星の一部には、水分子メーザーで高速のジェットが捉えられる「ウォーターファウンテン天体」があります。例えばW43Aでは、水分子メーザーを通じて細く絞られた分子ガスのジェットが報告されています(Imaiほか、2002)。その位置の変化とスペクトルから運動を調べ、広がりと速度をもとに、噴出が始まってからの時間の目安を考えます。
ジェットの運動を測定できても、その形成機構まで分かるとは限りません。星の進化のどの時点で、何が細い噴流を生み、それが星雲の形にどう関わるのか。2025年の講義では、こうした問いを示し、観測で分かることと、さらに検証が必要な解釈を区別することを大切にしました。
私が取り組む研究の一例として、星周メーザー天体のデータベースを用いた探索も紹介しました。出版済みの共同研究(Fanほか、2024)では、分子ごとのメーザーの速度範囲を比べ、特徴的な運動を持つ候補を選んでいます。候補の選定は、その正体の確定ではありません。記録を集め、違いを見つけ、個々の観測を詳しく確かめるという研究の進め方を通じて、学生が学ぶ大学にも、この問いに向き合う現場があることを伝えます。
これからの学びと、研究を見渡す
入学直後に触れるメーザーの物理や恒星のジェットには、これから学ぶ内容も含まれます。一度の講義ですべてを理解することだけを目標にする必要はないと考えています。どんな現象があり、何が問いになり、その答えを得るために何を測るのか。まずその見取り図を持つことにも意味があります。
2025年の担当回では、天文学におけるメーザーの応用、または惑星状星雲の形と形成過程の科学的意義から一つを選ぶレポート課題を示しました。講義で出会った問題を、自分で調べ、考察するための機会です。
教科書に整理された知識は、研究を進めるための土台になります。その先には、何を確かめればよいのかを研究者自身が考えている問題が残っています。さまざまな専門の教員から研究の話を聞くこの科目を、これから学ぶ基礎と、将来取り組み得る科学の問題を結びつけて考える機会にしたいと思っています。